減量による筋量減少
 諸君らのほとんどがこれまでに、少なくとも1回は減量をした経験を持っているはずだ。ところが、脂肪だけでなく筋量までもが落ちてしまったという人は決して少なくない。せっかく作り上げた筋肉なのに、摂取カロリーを制限して脂肪を落とそうとした結果、苦心して作り上げた筋肉までもがサイズダウンしてしまうのだ。
 確かに減量する際、消費カロリーよりも摂取カロリーを減らせば体重は間違いなく落ちていくだろう。ただし、その落ちていく体重が筋肉であっては意味がないわけで、私たちは脂肪だけを限りなく落としたいのだ。そんなわけで、減量を開始すると、できるだけタンパク質の摂取量は減らさないようにするわけだが、減量食の組み立て方に誤りがあると、“落ちた体重の半分は筋肉だった”なんてこともあり得るのだ。
 よく、アナボリックステロイドなどの薬物を減量中に併用すると筋量が維持されるなどと言われているようだが、アナボリックステロイドでさえ、極端にカロリー制限をした場合は筋量を維持することができないのだ。だから減量するときは徐々にカロリーを減らしていくことが勧められ、目安としては1週間に1kg以上は減らさないようにするアスリートたちが多いのだ。つまり、一度にカロリーを極端に制限したり、一気に体重を減らそうとしたりすれば、間違いなく筋肉が大幅に犠牲にされるということを肝に銘じておく必要があるのだ。
 さて、何度も言うとおり、摂取カロリーを制限すると、脂肪が減量される。脂肪が減量されれば、身体を構成している筋肉と脂肪との割合が変化する。つまり、体組成の変化が生じるわけだ。身体に起きる変化はそれだけではない。摂取カロリーが制限されているため、減量に入る前と比べて、どうもエネルギーレベルが低下したような感じを受ける。エネルギーレベルが下がると、今までと同じ内容のワークアウトでも最後まで完遂することができなくなったり、疲れがなかなか取れなくなったりするわけだが、それが筋量を落とす直接的な原因となるわけだ。  
クレアチンは筋量の減少を食い止められるか
 エネルギーレベルを高めるのに効果的であると言われているサプリメントといえば、おそらく、大半の人が“クレアチン”と答えるのではないだろうか。クレアチンはすでに諸君らアスリートにとって、お馴染みのサプリメントになっているわけだが、摂取したクレアチンは筋中のクレアチンタンクに貯蔵され、運動が開始されてATPがエネルギー源として消費され始めると、ATPの再合成のためにタンクから飛び出して活躍する物質である。
  もう少し正確に言うと、私たちが運動を開始すると、筋中に蓄えられているATPがリン分子をひとつはずしてADPに変わる。このリン分子をひとつはずしたときに、大きなエネルギーが生まれ、そのエネルギーが筋収縮のために用いられているのだ。リン分子を3つ保有していたATPはリン分子をひとつはずして2つのリン分子と結合したADPになるわけだが、ここでもし再度リン分子がひとつ提供されれば、ADPは再びATPに再合成されるのだ。幸い、リン分子はADPに渡されて再びATPが再合成されるのだが、このリン分子をADPに渡してくれるのがクレアチンなのである。そのために、筋中のクレアチンは必ずリン分子と結合した状態でタンク内に待機しているのである。
 さて、このような作用を持つクレアチンだが、もしクレアチンの作用を存分に得ることができるのであれば、これを減量中にうまく利用することができるのではないだろうか。つまり、摂取カロリーが制限されている状況下でも、クレアチンさえ十分に蓄えられていれば、エネルギーレベルが低下するのをある程度までは防ぐことができるはずだ。エネルギーレベルの低下をある程度まで防ぐことができれば、トレーニング強度が落ちることも制限できるし、エネルギー物質を十分に備えることができるため、疲労の回復も促すことができるはずだ。そして、結果的にそれが筋量の減少を抑えてくれるのではないだろうか。
 最近になって、それを確かめるための実験が行なわれたので紹介しよう。この実験は2001年発行の『メディスン&サイエンス・イン・スポーツ&エクササイズ』で発表されたもので、摂取カロリーを制限している期間中にクレアチンを摂取すると、エネルギーレベルが保持されるかどうかを確認するために行なわれた。実験に参加したのは16名の男性被験者たちだ。年齢は18〜26歳までで、いずれも2年以上のトレーニング歴を持っていた。実験期間中、被験者たちは全員が週にに3〜6回のワークアウトを行なった。なお、いずれの被験者も過去にドーピングの使用経験がない被験者たちである。
 被験者たちはまず2つのグループに分けられた。グループ1は4日間にわたって毎日20gのクレアチンを摂取し、グループ2は同量のプラシーボを摂取した。両グループとも毎日の食事内容は同じに統一され、その内訳は総摂取カロリー中の炭水化物が54.7%、タンパク質が21.3%、そして脂肪が24%であった。クレアチンの作用を確認するために、被験者たちは6秒間全力で走りきるスプリントを10本行ない、各スプリントの間には30秒ずつのインターバルを取った。
 さて、減量期間が終わり、両グループの体重を測定した結果、平均すると両グループとも体重が3.7%減少していた。確かにプラシーボを摂取したグループでは、クレアチングループに比べると筋量の低下がほんの少しだけ多く見られたが、消費された窒素量に関しては両グループともほとんど差は見られず、筋中タンパク質の減少は両グループとも同レベルであったと結論づけられた。ただ、今回の実験で両グループの被験者ともに、体重1kgあたりに約0.96gのタンパク質を摂取したのだが、消費窒素量は両グループともほとんど同量で、しかも同化されるよりも異化された量のほうが多いことから、体重1kgあたりに0.96gというのはまだ不十分であったと推測することができる。
  ちなみに、一般的に言われていることは、体重1kgあたり0.8gのタンパク質を摂取すれば十分すぎると言われている。今回の実験では、勧められる0.8g以上のタンパク質を摂取していたにもかかわらず、被験者たちの窒素濃度はマイナスに落ち込んでいたのだ。
 筋中のクレアチン貯蔵量についてはどうだろうか。両グループを調べてみたところ、クレアチンを摂取したグループ1では確かに筋中クレアチン貯蔵量が16%程度増えていたのだ。この値は通常のクレアチン・ローディングを行なったときに得られる値とほぼ同じ値だ。つまり、5、6日間にわたって、毎日20gのクレアチンを摂取したときに得られる筋中クレアチン貯蔵量の増加率とほぼ同じ結果を得ることができたわけだ。だとすれば、クレアチン・ローディングの効果については、摂取カロリーが制限されている状況下においても、普通にカロリーを制限しているときと同等の効果を得ることができるということだ。
 また、クレアチンを摂取したグループ1では運動能力が向上していることも確認された。つまり、被験者たちは30秒ずつのインターバルを挟みながら6秒スプリントを10本行なったわけだが、グループ1の被験者たちは、4本目のスプリント以降、走行距離が4.6%も伸びたのだ。これは明らかに競技能力の向上を意味している。その証拠に、プラシーボを摂取したグループ2の被験者たちは、同じカロリーしか摂取していないにもかかわらず、走行距離が平均すると1.1%減少してしまったのである。
 減少した筋量についてだが、確かに両グループとも顕著な差は見られなかった。ただし、正確に言うならば、クレアチンを摂取したグループ1ではプラシーボを摂取したグループ2よりも筋量の減量率が少なかったのだ。つまり、減量中に減少してしまう筋量はクレアチンを摂ることでわずかではあるが抑制することができるのではないかということだ。
  確かに消費される窒素量はクレアチンを摂っても抑制されることがないのだが、筋量が落ちにくくなっていたということは、筋中の水分がクレアチンの貯蔵量増加によって保持されたということではないだろうか。
  事実、クレアチングループでは、クレアチンを摂取して3日後に測定した筋中水分量が2%増加していたのだ。また、細胞内に蓄えられている水分量も3%の増加を記録していた。細胞内の水分量が増加するということは、細胞外の栄養素をより多く取り込むことができるということであり、一種のアナボリック反応を引き起こすサインでもある。クレアチンは水分と結びつく性質が非常に高いわけだが、今回の実験でもクレアチンのそういう性質が明らかに証明されたと言える(編集部註:言い換えるならば、クレアチンを摂取しているときは、水分の摂取量を減らしてはいけないということになります。特に夏場にクレアチンを摂取するときは、できるだけたくさん水分を補給するようにすることが大切で、それを怠ると、筋肉がけいれんしたりといった不快な症状が現われたり、ひどい場合は筋肉の断裂などが起こることも十分に考えられます)。
 減量中は誰だって摂取カロリーを制限する。そして、その目的は脂肪の減量であって、筋量の減量ではない。筋量を減らさないようにするためには、筋中のエネルギーレベルをできるだけ落とさないようにすることが必要であり、そのためにクレアチンは大いに役立つサプリメントであると言えよう(by Jerry Brainum)。■
クレアチンの効果を継続するためには“サイクルを組むこと”が不可欠!
by Steve Holman
『フィジシャンズ・デスク・レファレンス・フォー・ニュートリショナル・サプリメント』にクレアチンに関する次のような記述があったので紹介する(編集部註:フィジシャンズ・デスク・レファレンス・フォー・ニュートリショナル・サプリメントとは、栄養補助食品に関する参考書みたいなものです。海外にはこういった参考文献が多数出回っているため、一般の人でも、サプリメントに関する情報を詳細にわたって調べることができるのです)。
「クレアチンは小腸から吸収され、門脈循環に入り、肝臓に運ばれる。吸収されたクレアチンは肝臓内で合成されるクレアチンと同様、血液に乗って様々な組織に運ばれる。クレアチンが運ばれる先は筋肉であったり、神経であったりするわけだが、それぞれの組織の近くまで運ばれると、特殊なクレアチン・トランスポーターのシステムによって、細胞膜内に取り込まれるのだ。ところで、ラットを使った実験で、クレアチンを継続して投与すると、クレアチン・トランスポーターのレベルが低下することがわかった。そもそもクレアチン・トランスポーターによってクレアチンは筋肉などの組織内に取り込まれるため、そのトランスポーター自体のレベルが低下すれば、どれだけたくさんのクレアチンが体内に供給されたとしても、役立てることができなくなると考えられる」
 ということは、クレアチンの効果をできるだけ継続させたり、確実に得るためには“サイクルを組むこと”が不可欠であると言えるだろう。