|
|
|
身体をさび付かせる困った存在 |
長寿のための秘訣は、抗酸化物質やフリーラジカル・スカベンジャーと言われる物質を限りなくうまく利用し、活用することだ。しかし、ウェイトトレーニングを行なっている諸君らが、これら抗酸化物質やフリーラジカル・スカベンジャーについて真剣に話をすることはほとんどないだろう。それよりも、新しいトレーニング法や新しい脂肪燃焼サプリメント、定番のプロテインなどを話題にすることのほうが多いはずだ。実際、ジムで仲間のトレーニーからこんなことを打ち明けられたことがある人はいないはずだ。「ちょっと聞いてくれよ。信じられないものを手に入れちゃった。これだよ、この物質。最新の物質なんだぜ。オレたちの人生が変わっちゃうんだぜ。そうだよ、βカロチンさ!」。
おそらく、諸君らの大半が「βカロチン程度で騒ぐなよ。アホくさ・・・」と思ったに違いない。ところが、科学の世界では、βカロチンをはじめとする多くの抗酸化物質が物凄い注目を浴びているのである。どうしてか?それは長寿のためだけでなく、トレーニングを行なうボディビルダー、ウェイトリフター、ランナーはもちろん、家事にいそしむ主婦、仕事で身体を酷使する肉体労働者たちにまで、様々なプラスの働きをもたらすことがわかっているからだ。
私は自由と独立を愛する人間だ。しかし、残念ながら、私とは対照的に、社会の枠に自らをはめ込み、自由な発想を持つことを放棄してしまった人たちがたくさんいる。読者の中にもそういう人が大勢いるのではないだろうか。そこで、今回、この記事を書くに当たり、私は諸君らに、フリーで(自由で)ラジカルな(革新的な)発想を持つようになっていただきたいと思う。そう、いっそのこと、私たち自らがフリーラジカルを目指そうではないか!
というのは少々大げさであろう。第一、まったく話が脱線してしまった。人間的にはフリーでラジカルなタイプを目指したいのだが、今回話題にしているのは私たちの体内に潜むフリーラジカルとどう戦うかである。フリーラジカルとは遊離基のことで、不対電子を持つ原子のことである。この不対電子を持つ原子は、非常に不安定であり、化学反応が起きやすい原子なのだ。
このフリーラジカルが体内で発生すると、健康な細胞が攻撃を食らう。つまり、フリーラジカルが発生すると、体内で様々な問題が発生してしまうことになるのだ。これを阻止してくれるのが抗酸化物質であり、健康を維持する上ではもちろん、筋肉を発達させるためにも非常に重要な働きをもたらしてくれるのである。
最近の研究によれば、フリーラジカルによってリウマチ、アルツハイマー、ガン、パーキンソン病、その他諸々の心臓病など、多くの人たちが加齢によってかかる確率の高くなる病気が引き起こされているということだ。事実、フリーラジカルは非常に強力で、ひとたび攻撃に遭うと、難なくそれをかわすことができる細胞は存在しないほどである。
このフリーラジカルと戦うためには、フリーラジカルについてできるだけ学ぶことが必要である。まず、フリーラジカルは酸化と呼ばれるプロセスと密接に関係している。たとえば諸君らが新品の、傷ひとつないピカピカの鉄板を購入したとしよう。ところが、それをうっかり外に放置したまま1カ月が経過してしまったとする。1カ月後、新品で傷ひとつないピカピカだった鉄板は、所々にさびが付着し、ピカピカでも何でもない、ただの鉄の板と化しているはずだ。どうしてこのようなことになったのか。そう、酸化が原因だ。つまり、酸化することによってさびが生まれ、それがピカピカだった鉄板に付着したのだ。フリーラジカルには物をさび付かせる武器が備わっているのである。酸化によってさびを作り出し、身体の内外の様々な部品にそれを付着させてしまうのだ。
たとえば身体の中について言えば、フリーラジカルは悪玉コレステロールとして知られるLDL(低比重リポたんぱく)を血管内で酸化させ、それによってLDLがさび化し、それが血管に付着する。簡単に言えば、血管を内部からさび付かせてしまうわけだ。血管の内部がさび付けば、血管内に障害物ができてしまったことと同じである。当然血流が悪くなり、血液は変性し、その結果、様々な心臓病が引き起こされてしまうのだ。もちろん、フリーラジカルはコラーゲンや結合組織などをも攻撃し、その攻撃を受けると皮膚に異常が起き、最終的にはシワなどが作られてしまうのだ。 |
|
連鎖的に増える無数のフリーラジカル |
フリーラジカルとは、先にも述べたとおり、不対電子を持つ原子のことだ。不対電子とは、文字どおり、対になっていない電子のことで、その奇数個の電子がクルクルと原子の周りを回っているのが遊離基である。通常、原子の周りを回る電子の数が偶数であれば、その原子は安定した状態が保たれるのだが、電子の数が奇数個しかなかった場合、その原子は不安定な状態に陥り、不安定であるがゆえに化学反応を起こしやすいという特徴を持っている。不安定である原子は何をしようとするか。それは、奇数個しかない電子を偶数個にするために、別の対電子を持つ原子から電子をひとつ盗み出そうとするのだ。対電子を持つ原子は身体の中でいくらでもある。結合組織もそうだし、コレステロールもそうだ。そして、フリーラジカルによって電子をひとつ盗み出された原子は、本来の体内での役割を失い、最悪の場合、電子を盗まれた原子が、逆にフリーラジカルに変化してしまったりするのだ。このような連鎖反応が繰り返されると、短期間の間に無数のフリーラジカルが誕生してしまうことになる。
恐ろしいとは思わないか?諸君らはどうにかしてフリーラジカルの発生を阻止しようとするだろうが、それは無理な話だ。そもそも、フリーラジカルを完全にシャットアウトすることなどできないのだ。もちろん、その数を減らし、健康な細胞を防御することはできる。しかし、私たちの体内では24時間常にフリーラジカルが誕生し、特別なことをしなくても、フリーラジカルは常に発生し続けているのである。
それにしても、もしフリーラジカルが細胞を攻撃し、健康を害する要因物質であるならば、どうして私たちの体内でそれが生成されているのだろうか。また、それだけ危険因子であるならば、どうしてその作用が直ちに身体に現われることはないのだろうか。幸いにも、私たちの体内ではそんなフリーラジカルと戦ってくれる物質が同時に作り出されているのだ。つまり、戦ってくれる物質があるからこそ、私たちはフリーラジカルの猛威に突然晒されることなく過ごすことができているのだ。
フリーラジカルと戦ってくれる物質は、一般的に抗酸化物質と呼ばれている。フリーラジカルが私たちの体内で暴れ回らないように、抗酸化物質がフリーラジカルを常に鎮静してくれているのである。 |
|
抗酸化物質は一つでは足りない! |
ところで、どうして抗酸化物質はフリーラジカルを鎮めることができるのか。先にも述べたとおり、フリーラジカルが危険である理由は電子を奇数個しか持たないからだ。フリーラジカルはそんな状態を打破し、安定した原子になりたがっている。そのためには安定した状態の原子から電子をひとつ盗まなければならない。だから危険であったわけだ。しかし、抗酸化物質は、そんなフリーラジカルに電子をひとつ譲り、他の原子を攻撃する前に、フリーラジカルを鎮めてしまうのである。そんなことをすれば、抗酸化物質自体がフリーラジカルになるのではないかと思われるだろうが、その心配は無用である。抗酸化物質はたとえ電子をひとつ失ったとしても、自らが不安定になったり、化学反応を起こしやすい状態に陥ることがないのだ。それが抗酸化物質の最大の特徴なのである。
抗酸化物質のおかげで、私たちの体内で作り出されている無数のフリーラジカルは、安定した状態に変化し、それによって健康な細胞が害される機会は少なくなるわけだが、このありがたい抗酸化物質は常に作り出されているフリーラジカルと同数存在しているとは限らない。つまり、抗酸化物質とフリーラジカルの力関係が崩れるときもあるわけだ。そして、そういうときこそが健康の危機をもたらすのである。
抗酸化物質は体内で常に待機していなければならない。フリーラジカルが猛威を振るうのを阻止できるのは抗酸化物質しかないのだから。そして、だからこそ、近年、様々な抗酸化物質がサプリメントとして商品化され、人々に利用されるようになったのだ。ただし、フリーラジカルはあくまでも総称であり、私たちの体内には種々のフリーラジカルが存在している。ひとつの抗酸化物質ですべての種類のフリーラジカルを鎮静することができればいいが、そういうわけにはいかないのが現実である。
できるだけ種々のフリーラジカルを処理するためには、できるだけ多種類の抗酸化物質を体内で待機させておかなければならない。そのためには、普段の食生活で多種類のおかずを少しずつ食べ、多種類の抗酸化物質そのものを取り込んだり、体内で複数の抗酸化物質が作り出されるように準備しておく必要があるのだ。
ところで、フリーラジカルと戦うためにはいくつかのステップがあると思われる。それを簡単に図形化するならば、ひとつのピラミッドを作ることができるはずだ。まずピラミッドの底辺の部分にはフリーラジカルと直接対決するための要素が位置する。つまり、健康的な生活を構成する要素である。十分な睡眠、適切な食事、適度な運動などがそれに該当するわけだが、ここで言う十分な睡眠とは質の高い睡眠のことであり、できるだけ深い眠りのことである。また、適切な食事とは、穀類や果物、ナッツ類などを含む食事のことであり、適度な運動とはやりすぎない程度に身体を動かすことである。念のために述べておくが、運動をやりすぎるとそれが原因でフリーラジカルが増加してしまう。したがって、フリーラジカルから身体を守るためには、本来、やりすぎない程度の運動にとどめるべきなのである。この3つの要素がピラミッドの底辺を作る基礎となる。
覚えておいていただきたいのは、基礎がしっかりしていなければ、どれだけ種々のサプリメントをとっても意味がないのだ。基礎をしっかり作らずに、サプリメントばかりに頼っても、フリーラジカルの攻撃を阻むことはできないのである。
ピラミッドの中間部に位置するのは基本的なサプリメントだ。基礎がしっかり作られていれば、中間部に位置する基本的なサプリメントを利用することで、さらに防御態勢を強化することができるのだ。ピラミッドの中間部に位置するサプリメントとは、ビタミンCやE、βカロチン、βカロチンの代謝物質であるビタミンA、そして、亜鉛、銅、マンガンやセレニウムといったミネラル類などだ。それぞれを単体で摂取するのは難しいが、幸いにも私たちの周りには様々なメーカーがマルチビタミン&ミネラルを出している。それを利用すれば、これらの物質を何ひとつ欠くことなく身体に取り込むことができるはずだ。この中でも特にビタミンCやEは様々な食物の中に含まれており、それ自体が体内で強い抗酸化作用をもたらすのであるが、同時に、これらのビタミンが体内に十分蓄えられていれば、体内で作り出される抗酸化物質の生産量も多くなるのである。 |
|
重要な抗酸化物質たち |
先にも述べたことだが、ひとつの種類の抗酸化物質だけですべてのフリーラジカルを退治することはできない。たとえば戦争でも、それぞれの役割を持った兵士がいる。それぞれの兵士はそれぞれの武器を持ち、ひとつの部隊は別の部隊と異なった動きをするはずだ。もちろん、迎え撃つ側も、それぞれの敵部隊と戦えるよう、様々な作戦を用意し、様々な防具を身につけて潰されまいと抵抗してくる。体内で起きるフリーラジカルと抗酸化物質との戦いもちょうどそれと同じなのだ。
抗酸化物質は大きく2つに分けることができる。ひとつは水溶性の抗酸化物質で、もうひとつは脂溶性だ。水溶性の抗酸化物質は、体液に浸されていたり、満たされている組織を守ってくれるし、脂溶性の抗酸化物質は脂質性の組織を守ってくれる。だから水溶性のビタミンCと脂溶性のビタミンEは抗酸化物質の代表として知られているのだ。
ビタミンCやEほど重要ではないかもしれないが、βカロチンもまた、抗酸化物質としての作用が非常に強く、欠かせない栄養素である。βカロチンは必須栄養素のビタミンAに体内で変換されるのだが、脂溶性の抗酸化物質として大いに活躍してくれるのである。しかし、βカロチンの最大の武器は一重酸素を消滅させることである。一重酸素は紫外線などによって作り出されるフリーラジカルだが、βカロチンが十分に体内に蓄えられていると、それを消滅させてくれるのである。ビタミンEも同じように一重酸素を戦ってくれるのだが、ビタミンEと一重酸素の戦いでは、両者が相打ちする形になってしまう。ところが、βカロチンの場合は一方的に一重酸素を消滅させることができるため、わかりやすく言えば、βカロチンが1つあれば、その何倍の数もの一重酸素を消滅させることが可能になるのである。
ピラミッドの中間部分には種々のミネラルも属している。これらのミネラルはそれ自体が抗酸化作用を持っているわけではないのだが、体内で活躍する抗酸化酵素を活性化させるために、これらのミネラルは欠かせないのだ。たとえば亜鉛や銅、マンガンは体内のスーパーオキサイド・ディスムターゼと呼ばれる酵素を作り出してくれる。また、セレニウムはグルタチオン・パロキシダーゼやチオレドキシン・リダクターゼなどの抗酸化作用の強い酵素を形成してくれるのだ。
ところで、ここでもう少しマンガンとセレニウムについて述べておくことにする。亜鉛や銅も重要なミネラルではあるが、私は特にマンガンとセレニウムに着目しているのだ。
マンガンは体内でマンガニーズ・スーパーオキサイド・ディスムターゼ(MnSOD)と呼ばれる酵素に変換されるのだが、この酵素は主にミトコンドリアに作用し、ミトコンドリアをフリーラジカルから守ってくれるのだ。ミトコンドリアは“脂肪燃焼工場”と言われており、たくさんの酸素を使って脂肪を燃焼させている。しかし、脂肪を燃焼させるためにたくさんの酸素を消費しているため、同時に大量のフリーラジカルをも生成してしまっているのだ。ミトコンドリアが消費する酸素量は、身体の全細胞が消費する酸素量のうちの90%である。それだけ多くの酸素が脂肪を燃焼させるためにミトコンドリア内で使われているのだ。脂肪の燃焼の際に副産物として作り出されるフリーラジカルはスーパーオキサイドラジカルと呼ばれており、マンガニーズ・スーパーオキサイド・ディスムターゼはそれをハイドロゲン・パロキサイドにまで変換させるのである。ハイドロゲン・パロキサイドに変換されたフリーラジカルは別の抗酸化酵素によって最終的には水になる。つまり、最終的にこのフリーラジカルを水にするために、マンガニーズ・スーパーオキサイド・ディスムターゼは絶対に不可欠な酵素なのだ。
セレニウムは体内でグルタチオン・パロキシダーゼを形成する上で欠かせないミネラルだ。この酵素は非常に強力な抗酸化作用を持ち、身体全体を守ってくれるほどの力を持っている。それだけでなく、この酵素はビタミンEを補佐し、限られた量しか存在しない脂溶性の抗酸化酵素を確実に作用させてくれるのである。動物実験によると、セレニウムとビタミンEは互いに補い合うことができるのだそうだ。つまり、ビタミンEが酸化によって何らかのダメージを食らい、本来の働きを維持することができなくなった場合、そこにセレニウムが存在していれば、セレニウムがその役割を引き継いでくれるということだ。また、セレニウムは特定のグルタチオン・パロキシダーゼの一部となり、精子を酸化から守ってくれるという実験結果も得られている。
次回はピラミッドの頂点を形成する最強の抗酸化物質について解説する。■ |