スタビライザーを鍛えよう
 読者のみなさんは、たとえば胸のトレーニングで、片方30kgのダンベルベンチプレスを限界まで行なったあと、休息を入れずにそのまま続けて60kgのバーベルベンチプレスを数レップス上げることができたなどという経験はないでしょうか。もしかしたら、その後さらに休まずに60kgのスミスマシン・ベンチプレスを数レップス続けることができるかもしれません。また、大抵のトレーニーはベンチプレスのとき、足をベンチ台に乗せて行なうと、足を床に着けて行なうときほど重い重量を扱うことはできないでしょう。
  なぜこのようなことが起こるのでしょうか。その原因はすべて「安定性」にあります。つまり、バーベル・ベンチプレスよりもダンベル・ベンチプレスのほうが、あるいは、足を床に着けて行なうよりも足をベンチ台の上に乗せたほうが安定性が低くなり、それだけスタビライザー(支持筋群。体位によって微妙に変化しますが、主に体幹部や関節の周りの筋群を指します。また、ローテーターカフや股関節のインナーマッスルも同様です。スイスボール・トレーニングのオーソリティーであるポール・チェックは「関節をケガから守る筋群」と表現しています)が酷使されているので、その結果、主働筋(この場合は大胸筋を指します)が疲労する前にスタビライザーが疲労してしまい、その重量を上げることができなくなってしまうのです。
    ウェイトトレーニングでは常にスタビライザーが制限要素となっています。スタビライザーが疲労すると、脳は主働筋を働かせるための司令を筋肉に送ることをやめてしまうのです。
 では、どうしたらそのスタビライザーを強化することができるのでしょうか。答えは「不安定な環境でトレーニングする」です。そして、自らその不安定な環境を作り出して行なうトレーニングが、今回から紹介するスイスボール・トレーニングなのです。
  スイスボールはもともとイタリアのAquilino Cosaniというおもちゃメーカーが開発したボールで、1960年代にマリー・クイントンが彼女の患者の神経機能回復に、70年代にはスーザン・クライン・ヴォーゲルバッハが整形外科的機能不全の患者の治療に、そして90年代にポール・チェックが筋力トレーニングの道具として用いました。
  スイスボール・トレーニングでは主働筋を鍛えることはできませんし、それを目的ともしていません。しかし、スイスボールでスタビライザーを強化することで、脳がより多くの主働筋を使うよう神経系を活性化させるので、主働筋を鍛えるトレーニング(通常のベンチプレスなど)でより重い重量を扱うことが可能になるのです。
(次のページへ)